結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「じゃあ、今度本社に乗り込んでいってもいいですか?」

「もちろんです。よろしければ工場もご案内いたしますよ」

「あぁ、工場見学いいですね。久々にしたいな」


……あ、あら? なんかあっという間に葛城さんが乗り気になってきたぞ。

さっき険悪になりかけた空気が一転して、とても話が弾み出した。

そういえば、交渉不可の事柄がある場合、交渉できる事柄で取り囲むと話が進めやすい、というのを心理学で習ったっけ。

おそらく社長は、サンセリールについて知ってもらうという、交渉可能な小さな要求をさりげなく出したのだ。コラボの件を進めるためにまず必要なのは、こうして葛城さんを私たち側に引き込むことなのかもしれない。

こうやって日々交渉しているのか……勉強になる!

社長の自然で巧みな話術を目の当たりにして、感心しまくる私の心も軽やかに弾んでいた。


それから数十分後、お酒も進んですっかり上機嫌になった葛城さんと、ほろ酔いの私は例の元素話で盛り上がっていた。


「じゃあ倉橋さん、金属水素も知ってる?」

「もちろんです! “高圧物理学の聖杯”って呼ばれてるなんて、めちゃくちゃカッコいいですよね」

「そうなんだよ! いまだに科学的に解明されてないってのもロマンを感じるしなー」

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