彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
新しいことを始めるとき

料理教室に行くことで 新しいことをはじめることで 今までのことを何か一つ忘れられるような気がして。

明日は料理教室の日。

朔也さんからのメールに書いてあったのは『かわいいエプロンだけ持ってきてね』この一言だけ。
これならメールじゃなくても……
ただの地図の添付だと思ってたファイルを開くとそこには連絡事項が詳細に記されてた。

最近になってやっとお菓子を作り始めた私はエプロンなんて持ってない。
だから望亜奈さんに付き合ってもらって購入して、さっき家に帰ってきた。


主任が東京に行ってしまってから三週間。
最近ではすっかり誰も主任のことを口にする人はいなくなった。
私も新しく担当した営業の補佐として日々忙しく過ごしていた。


「今日はいっぱい歩いて疲れたし、お風呂にゆっくりはいろ」


他には誰もいない部屋で今日も独り言を言う。



ポチャン――



お風呂の中で足をマッサージしながら、明日からの料理教室の事を考えた。

全部で10人の生徒さん。
月2回で1シーズン全12回。約半年の間、通うことになるらしい。


「私、包丁もまともに持てないのに大丈夫なのかな…」


何から練習していいのかわからず、結局教室がはじまるのは明日。
平日は仕事が忙しいと言い訳しつつ、何もしないままに過ぎていた。
週末は実家に帰っていたから、それはそれでまた何もせずに過ごしてしまった。

潤兄の家にお邪魔した日。
あのまま朝まで寝てしまった私を朝ごはんを食べるために外に連れ出すと、そのまま何故か実家まで送ってくれた。
日曜日にまた迎えに来るからと言い残して。

実家にいればその間は何も考えずにいられた。
一人で過ごす時間は寝ている時だけ。おかげで心がちょっと穏やかになれた気がした。
潤兄は私の事、私よりもよく知っているのかもしれない。


「少しずつでも前に進まなきゃ……」


朔也さんの誘ってくれた料理教室はほんのきっかけで。
新しいことをすれば少しでも意識を違うところに持っていける。

そしていつのまに忘れちゃうぐらいに……なったりしてくれる?


前の生活には戻れない。
だったら新しい何かをくわえればきっと忘れることができるよね?
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