彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
部屋の前について、「ここです」って言ってもう一度お礼を言う。


「できるだけアルコール成分を出してしまった方がいいので、寝る前までに飲んでください」


そう言って渡してくれたのはミネラルウォーターで、こんなのいつ買ったの?って疑問は残るけど。
まぁ部下だし、少しは心配してくれてるのかな?


「それと……」


まだ何か?
御礼をしたままの状態で下を向いている私はそのまま続く言葉を待ったけど、なかなか聞こえてこなくて。
顔を上げて主任を確認すると、


「ノンアルコールの食前酒用意しておくと朔也も言ってましたので」


あー、なるほど。気を悪くするなってことだよね?
慰めてくれてるんだよね、主任は。
 

「今度はお酒なしで楽しめばいいですから。それではおやすみなさい」


今、今度って言った?
今度がある、のかな?


「ありがとうございます。お気をつけて」


頭を下げたまま階段を下りる主任の足音を聞いていた。

鍵をあけて部屋に入ると、ミネラルウォーターを握り締めたままドアに寄りかかって考える。


主任と二人で夕飯食べたんだよね。
おいしくて楽しくて幸せな気持ちになったなぁ。


お酒飲んじゃったのは失敗だったけど、


って、私。
夕飯代もタクシー代も払ってない!

ご馳走してくれるなんて一言も主任言ってないし、当然払ってるだろうし。
タクシー代は目の前で払ってたし。


主任のお財布から出てるんだよね?
ご馳走してもらおうなんて最初から思ってないのに、なんか私一言もそんなことすっかり頭から抜け落ちてて。


えー。
この前のお昼もいつの間にか支払い終わってたし、なんだかスマートすぎて気づかないじゃない。

主任の個人の携帯アドレスなんてもちろん知らないし、仕事用のは会社のパソコンにしか入ってない。

知ってそうな人は……


「あ。望亜奈さんだったらアドレス登録ぐらいしてるかな?」


慌てて電気をつけて部屋に入り、カバンの中から携帯電話を取り出すと望亜奈さんにメールをした。


『今日の外回りの報告しわすれたことがあるので、主任のアドレス知りませんか?』


こんな感じでおっけーかな?

望亜奈さんからの返事はすぐに返ってきて


『無駄に知ってるわよ!こんな時間に仕事のメールって、桃ちゃんも大変だねー』


望亜奈さん、ごめんなさい。
仕事なんて嘘です!


でもどうしても、お金のことも気になるし、もう一度謝りたい。
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