彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
私が降りてドアが閉まった瞬間タクシーは走り出した。


「え?主任。タクシー行っちゃいましたけど?」

「いいんですよ。近くですから」


あぁそういえば。五分とかからないとか何とか言ってたような気もする。


「あの、今日はすみませんでした」


どうせ目を見れないなら、今のうちに言ってしまおう。
おもいっきり頭を下げたからちょっとクラッとしたけど、今はそんなことかまってられない。


「二階ですか?」


私の今しているこの行動を全く無視した主任の発言に驚いて頭をあげてしまって。


「え、あの?201です。けど」


うちはいわゆる安アパートだから、外階段で。
手すりだってあるし、たとえ酔っていたとしてもゆっくり歩けば十分一人で平気だと思うけど。


「大丈夫ですか?行きますよ?」

「え、あ。の」


有無を言わせない威圧感たっぷりの様子で主任が言うけど、


部屋すぐそこだし。
見えてるし。


目の前の主任はじっとこっちみてるし。
段々とその顔の眉間にシワがよってきて。
なんか怒ってる?


「知らなかったとはいえ、飲ませたのは私ですから」

「だから私が勝手に飲んだんですから、主任は全然悪くなんてないです!」


慌てて主任は悪くないって訴えるけど、まったく聞く耳を持ってくれない主任。


「部屋に入るのを見届けたら帰りますから」


あぁなんていうか、それ決定事項的な言い方で。

なんか変な感じ。
主任と私の部屋に向かうアパートの階段を上ってるというこの事実に。

ぼんやりと考えていたから、最後の一段を上りきれなくて慌てて手すりをつかむけどバランスを崩して。

後ろから上ってきていた主任に背中を支えられるような形で抱きとめられてしまった。


「―――っ」


若干パニック気味で言葉なくパクパクとする私に、


「大丈夫ですか?」


そのままの体勢で主任が話しかけるから、当然その声は耳の側で。


わざとじゃないってわかってるけど、
主任を意識するには十分で。


そんな声で
そんな近くで
それ反則。


声が素敵だなって思ったのも
新たな一面に興味を持ったのも

主任のこと気になってたからだとその瞬間に気づいてしまった。

でも、気づいたところであくまで私は彼の部下にしかすぎない。だから、

「あの、すみません。私ドンくさくて」


慌てて離れて、へへって笑って見せたけど、うまく出来たかな?
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