今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
 その後も話が盛りあがってしまいずるずると居座り、お茶までご馳走になり結局店を出たのは日が落ちかけた頃だった。

「思ったより早いですね、暗くなるの」

「そうだな、そろそろ帰らなければララにも色々と小言を言われるだろうな」

 ──今日は、もう終わりか。

 思っていたよりずっと楽しんでしまっていた自分に戸惑う。
 足を止めた自分を振り返るカディスを見上げる。この人は少しくらいわがままを言っても許してくれるのではないかと思う。
 深く考えるより先に、口が動く。

「その、もし……迷惑じゃなかったら。またいつか街に来させてください。今度はもっといろんなところも見てみたいです」

 対してカディスは小さく首を傾けて嘆息した。

「最初からそのつもりだが。予定に定期的に組み込むつもりでいる。百聞は一見にしかず、と言うしな」

「また……一緒に来るんですか、あなたは」

「他に誰が行くんだ? 俺以上の護衛はいないぞ。光栄に思え」

「別に頼んでないです」

 憎まれ口を叩きつつ、少しだけ、ほんの少しだけ、2人で出かけることを楽しみにしている自分がいることに、薄らと気がついていた。

「さぁ、帰るか。馬車は止めたままだからな、と……」

 カディスが腰に手をやって苦い顔をした。

「忘れ物をした。店までついてくるか?」

「嫌です、面倒臭い」

 顔を顰めると、そうだろうな、とカディスが頷いた。

「急いで戻ってくるから、ここで待っておけ」

「はいはいわかりましたー、子供じゃないんだから、もう」

 まだ何か言いたそうにしていたカディスだったが、日が暮れているのを思い出したのか踵を返すと早足に来た道を戻っていった。

 それを確認して、アリーナは歩き始めた。そうは言っても、大通りに出るくらいは大丈夫だろう。ここは暗いし、一人でいるには正直ちょっと怖い。ついていくと言うのは恥ずかしくて無理だった。

 大通りの明るい街灯が見える。ほうっと一息ついた時、不意に目の前に人が現れた。避けられず思いっきりぶつかる。
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