今宵、皇帝陛下と甘く溺れる

「行くぞ。準備はいいか」

「……大丈夫、です。さっさと行きましょう」

 ぷいと顔を背けてカディスの横を通り過ぎる。我ながら可愛げがないと思う。でも自分の顔が今どうなっているのかわからなかったから、見られるわけにはいかなかったのだ。
 もし、にやけでもしていたら困る。

 くん、と髪が引っ張られてアリーナは仰け反った。大股で歩いていたのでかなり痛く、涙目で振り返る。

「何するんですかっ」

 カディスは指に絡めていたアリーナのゆるくうねった栗色の髪を離した。その指先が酷く惜しそうにゆっくりと解かれるのを見て、アリーナは何も言われていないのにどきりとした。

「思っていた以上に癖毛だなと思ってな」

 ふ、と薄く微笑まれて顔が熱くなる。

 ──それだけなら、どうしてそんな風に触るの。

「ま、また人が気にしていることをあなたは! 生まれつきなんですから仕方ないでしょう。これでも頑張ってるんですよ。……今はララが」

「大変だな、あいつも」

 声を出して笑われたけれど、不思議と嫌な気持ちではなかった。



「今日は何を見に?」

「お前の好きところでいい。俺は城下町なら大体どこでも知っているからな、案内できる」

 カディスがぼんやりと街並みを眺めながら言う。
 急にそんなことを言われても、本当に何もわからないのだから思いつかない。

「それなら、アクセサリーとかに行ってみたいなぁ、なんて」

 困らせてやろうとそんなことを言ったら、カディスは大して気にした様子もなく首を縦に振った。

「それなら良い店がある。色々と売っているから見るといい」

「え」

「贅沢品が売られているということは、国の者たちにそれだけの余裕があるということだからな。その質を見るのも重要なことだ」

 アリーナは間抜けに口を開けたまま固まった。カディスに腕を引かれ半ば引き摺られるようについていく。

 だって、と心の中で呟く。そんな場所、まるで本当に──
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