今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
 半ば自分に言い聞かせるように、わかっていると繰り返す。

「貴方が何をするにしても全部あの子のためなんだってわかってた。それでも貴方の傍で助けたいと思ったのは……私の勝手だもの」

 口を開きかけたカディスを、謝らないで、とアリスティアは手で制した。

「どれだけ頑張っても、きょうだいとしか見てくれなかった。でも、だから大切にしてもらえてるって、私も本当はわかっていたの。私はこの関係を壊せない。私の想いは……とても、いえないわ」

 アリスティアは袖でごしごしと乱暴に涙を拭った。子供っぽい仕草だった。
 地面を見つめたまま動かなくなる。怪訝に思ったカディスが呼びかけると、小さな声が返ってきた。

「カディス、ごめんなさい」

「俺も悪かった。もういいから気にするな」

「違うの。今すぐ、できる限り急いでドゥーブルに帰った方がいいわ。もしかしたら……もう手遅れかもしれない、けれど」

 カディスは眉を顰めた。

「……何の話をしている?」

「ルグマ様も私たちが入れ替わっていることを知っているの。いいえ、元から2人で計画したことなのよ。ほんの悪戯だと言われて」

 絶句した。頭が真っ白になる。

「私、私……ごめんなさい。いくら腹が立ったからって、ひ、酷いことをしてしまったわ。どうなるかくらい想像できたのに。ただ、あの時は自分のことしか考えてなくて──」

 ルグマとは国同士の諍いとは別に、個人的な問題もある。そして彼は未だにそのこと根に持っているに違いない。腹いせに、アリーナに手を出したとしてもおかしくない。

 今ここでアリスティアを詰ったところで何も変わりはしない。カディスは自分が乗っていた馬車から馬をはずし跨った。

「アリーナ……!」

 頬をなぶる風が痛い。感覚が研ぎ澄まされたように何もかもがはっきりとし、ここ最近怠くなる一方だった身体も羽のように軽かった。

 ──早く、行かなければ。

 ずっと、自分のせいで辛い目に合わせてばかりだ。
 過去は変えられない。自分が撒いた負の種は自分で処理しなければいけないのだ。もう逃げられはしない。
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