王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です【サイト用番外編】
ギルバートが磨いたリリアンのブーツと、ロニーが磨いたギルバートのブーツ。それぞれを履いて、ギルバートとリリーは山へ探検にやって来た。
「ギルに野ウサギを見せてあげる。私、巣穴を知ってるの。誰にも内緒よ」
リリアンは得意げにそう言ってギルバートの手を引き、山の中へズンズンと入っていく。
山の中を歩くのはギルバートは初めてだ。動植物や地形、天候などの知識はあるけれど、実際に奥深く入るのはこれが初めての体験になる。
リリアンがおやつとハンカチを入れて持たせた鞄の中には、一応ランプや火打石、傷薬なども入れておいた。それから、万が一に備えて外套の下には帯刀もしている。
子供の足で散歩する距離ぐらいなら特に危険はないと思うが、念には念を入れてのことだ。たとえ何が起きても、リリアンを危険な目には遭わせたくはない。
ギルバートは手を引かれながらも時々振り返り、慎重に方角と道を確認しながら歩いた。
やがて、少し開けた小高い丘に出ると、リリアンは「あそこよ」と指さして雑草と低木の生い茂る藪へと駆け出した。
そして伸びきったチガヤの葉の影に隠れるようにしゃがみ込むと、口に指をあてて「しーっ」と息を潜める。しかし。
「……おかしいわね。前に来たときはここにウサギが出入りしてるのを見たのよ」
いつまで経っても藪には動物一匹現れず、虚しく時間が過ぎていった。
「巣穴を引っ越しちゃったのかも知れないね。仕方ないよ、少し戻って花摘みでもしよう」
ギルバートは目ざとく辺りを見回したが、野生動物の糞や草をかじった跡など見当たらなかった。おそらくとっくの昔にウサギは巣を移動したか、さもなくばリリアンの思い違いの可能性が大きい。
これ以上ここにいても無駄だと悟って声をかけたが、リリアンは頬をぷうと膨らませてしまった。