王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です【サイト用番外編】
そんなある日。
ギルバートが部屋でひとり、リリアンのブーツを磨いていると、ロニーが室内へと入ってきて目を剥いた。
「ギルバート様……! 靴磨きなど、屋敷の下女にやらせてください! いくらリリアン様の前で従僕だと偽っていても、本当にあなたが靴磨きまでする必要はありません!」
王子が子爵令嬢の靴磨きだなどと、あり得ないことだ。ロニーは慌ててギルバートの手からブーツを取り上げようとするが、ギルバートはそれを拒否する。
「リリーの物に勝手にさわるな! これは僕だけがふれていい物だぞ!」
主君のあまりにも意外な言葉に、ロニーは目をまん丸くしてしまう。しかし、再びブーツを布で磨き出したギルバートはえらくご機嫌だ。
「なあ、ロニー。見ろよ、この小さい靴。リリーってば背は僕より高いのに、足は僕より小さいんだ。可愛いよなあ。将来は僕の方がリリーよりずっと背が大きくなっちゃうんだろうな。ふふ、腕に閉じ込めて抱きしめる日が楽しみだ」
うっとりとした目でブーツを眺めるギルバートの姿に、ロニーは驚きのあまり言葉も出ない。
主君のことは理知的で年齢よりずっと大人びていると常々感じていたが、恋愛に関してもどうやら一般的な少年の感覚とはズレているらしい。
普段リリアンの前で正体を隠してかわい子ぶっている姿と言い、わずか十二歳にして妙な計算高さというか腹黒さを感じる。
そんな風にロニーが汗を一筋こめかみに流していると。
「あ、そうだ。これ磨いといて」
ギルバートは隣に置いてあったウッズマンブーツをポイっとロニーに投げて渡した。サイズ的にそれはどうやらギルバートの物らしい。
「午後からそれ履いてリリーと山へ行くんだ。だから昼までに綺麗にしといて」
リリアンのブーツは自分で手入れしなければ気が済まないが、自分の持ち物は王子らしく側近に支度させる。
横柄なような、いじましいような。そんな主君の姿にロニーは複雑な表情を浮かべながら、おとなしくブーツを持って部屋から出ていった。