ケーキ屋の彼

「そうだ、この前うちのケーキのこと褒めてくれたって美鈴から聞いたんだ、本当にありがとう」


ケーキ屋以外で話すのは初めてで、そしてまた、こんなに長い言葉を貰うことも初めての柑菜は、緩む口元を隠せずにいた。


ーーこのまま、時間が止まってしまえばいいのに……。


「昔からケーキが好きで、あそこのケーキは今までに食べたケーキの中で一番です」


柑菜は、嘘偽りなく本心を話した。


「ありがとう」


柑菜の言葉を聞いた秋斗は、少し目を逸らして表情を暗くしたが、すぐに元通りになる。


その2人の場に、遠慮がちに櫻子がやって来た。


「柑菜ちゃん、もうそろそろ時間だから、料理運ぶわね」


櫻子が時計を確認すると、3時の5分前を指していた。


きっと、そろそろ亜紀もやって来るだろう。
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