ケーキ屋の彼
みんなは、それぞれ思い思いに行動していた。
亜紀は、美鈴と美術の話で盛り上がっている。
どの画家が好きだとか、どの時代の絵が好みであるとか、専門トークを繰り広げていた。
櫻子と涼は、なにやらヒソヒソと話をしている。
櫻子のその顔は、やはりほんのり赤くて、口角も上がっていた。
柑菜は、オレンジジュースを飲みながら、ここから見える西音寺家の立派な庭を眺めている。
「ケーキ、お好きなんですね」
すると、後ろから柑菜に話しかける秋斗の姿があった。
「ケーキ食べると、嫌なこととか忘れちゃうんですよね。それに、絵を描いたあとの甘いものがすごく身体に染みるんです」
こんな話を秋斗にしている自分が、数ヶ月前の自分では信じられないことだと、柑菜は今この時間をじっくりと味わう。
「絵、描くんですね」
「はい、専門的じゃなくて、教員になるための勉強で、でなんですけどね」