ケーキ屋の彼
2人は別荘を出て、櫻子に言われた通りに右に曲がった。
木々に囲まれた道は、この暑い夏の中でも涼しさを感じる。
それに、煩わしいものがない自然の中は、どこかロマンチックで気分をより一層高めた。
「柑菜さんは、ケーキの中でなにが一番好き?」
「そうですね……強いて言うならチョコレートのタルトです。チョコの柔らかい食感とタルトのサクッとした食感が絶妙に合って……それがすごく好きです。チョコレート、好きなんですよね」
柑菜は、話し終わった後に、少し長かったかもしれないと反省をする。
ーーきっと2人きりだから間を持たせようと話しかけてくれるだけなんだ、なのに調子乗っちゃって……。
「僕もチョコレート好きだな。あ、そういえば今年の秋にフランスのチョコ展が日本で開催されるらしいんだ、その……一緒に行きますか?」
まさかの秋斗からの誘いに、柑菜は一瞬言葉を忘れる。
「い、行きます、もちろん」
「よかった」
ふわっと笑顔を作る秋斗の横顔を見る柑菜は、何も持っていない手を握りたいと思ってしまう。