ケーキ屋の彼

「俺は、先輩の絵が好きなんだ。繊細だけど力強い。だから、そんな絵を描く人に興味を持った。自分みたいに中途半端みたいな気持ちで絵を描いている人間じゃなくて、本物に会いたかったんだよ」


「中途半端……?」


「あんまり詳しくは言えないけど、柑菜のことがあって、それで俺は絵を必死に勉強して絵画を今学んでいる。だけど、それがもしかしたら柑菜をもっと窮屈にさせてるんじゃないかって思うこともある。って、これじゃあ柑菜の話だよな。だからつまり、俺はどっちかと言うと、先輩に対しては尊敬してる方が大きいってことだ」


「涼くんは、柑菜ちゃんのことも美鈴さんのことも好きなのね」


櫻子は、特に涼の柑菜に対する思いが羨ましいと感じてしまった。


家族とはいえ、これほどまでに相手のことを思いやれる涼に、櫻子はますます思いを募らせる。


しかし、美鈴に対して、人柄だけじゃなく絵に対しても好意を感じていることを知り、その大きくなる思いが、逆に櫻子を苦しめた。


自分の作品を好きだという声は、自分を好きだと言ってくれる声と同じくらい大切なものだから。


「あ、この前廊下に飾られてた西音寺の版画見たよ」


思い出したように話し始める涼。
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