ハライメ〜悪喰の大蛇〜
もどかしさに、思わず胸を押さえる。
……だけど、加代の話が正しければ、私が四歳になる頃まで日菜子の母はこの家で暮らしていたことになる。
でも私は、彼女のことを何一つ覚えていない。
三歳だった日菜子は、何も覚えていなくてもむりはないけど……
そして祖母と父は、私と日菜子に嘘を教えた。
当然、私が彼女を覚えていないのをわかった上で、だ。
どうして?
日菜子が想像したとおり、『ひどい話』だから二人は子供たちに嘘を教え、私は記憶から彼女の存在を消してしまったの?
何で、どうして、何があってーーー
シャン。シャン。
背後の戸の向こうから、鈴の音が響いた。
日菜子が私たちの会話を聞いていたのかもしれない。
不規則に鳴る鈴の音に耳を傾けるうちに、ふいに、
『知りたい』
不信と恐れに揺れる心の奥から、そんな感情が湧き上がる。
知りたい、本当のことを。
そして……真実を知るために踏み出すのは、今しかないんじゃないか。
そう思った瞬間に、私は決意を固めていた。