ハライメ〜悪喰の大蛇〜
もう今日は考えるのをよそうと思うのに、脱衣場で服を脱ぎながらもずっと母の日記の内容が頭から離れない。
佳菜子の身に起こったこと。
それだけじゃない。
父と祖母が佳菜子に対してとった行動……。
(おばあちゃんは仕方ないとしても、お父さんまで、どうして……)
仲の良い兄妹だったはずの父と佳菜子。
だけど、「蛇憑き」呼ばわりされるようになった佳菜子の味方になったのは母だけだった。
父は妹の心の問題と向き合うより、世間体と総代としての立場を守ることを選んだ……。
ショックだった。
私は本当のことが知りたかった。日菜子に教えてあげたかった。
だけど……今、知らなければ良かったと思っている自分がいる。
日菜子にだって、こんなことどうやって教えればいいっていうの?
悩みながらお風呂場のガラス戸に手を掛けた時だった。
シャン……
(え?)
鈴の音だ。
空耳かと思う内に、再びシャン、シャン、と音がする。
今度はかなりはっきりと聞こえた。
離れからする音じゃない。
近い。
この家の中の……すぐそこの廊下で鳴っているみたいな音。


