ハライメ〜悪喰の大蛇〜
「ヒナ、加代ちゃんはあんたがちゃんとできるか心配したわけじゃないよ。ヒナならできるに決まってるもの。
ただ、あんたの力になりたいって思ってくれただけ。それは、私も同じだよ」
私は落ち込む日菜子の肩を、わざと強く揺さぶった。
「だいたいねえ、あんたあのとき、『これでうちの一員になれる』みたいなこと言ったけど、何言ってんの。
あんたは産まれた時からうちの子だし、私の妹だし、お父さんの娘でしょ。儀式なんかで改めて確かめる必要もないのに」
「いたた……で、でも、私って何なんだろう、ここにいていいのかなって結構悩んだりするのよ。お母さんはいないし、実のお父さんのことは全然わかんないし……」
「それが何よ。私だって、出て行っちゃった自分のお母さんのこと、何にも覚えてないんだから。
そりゃあ普通の家庭とはちがうし、いろいろ面倒なこともあるけど……。あの家が、私たちの家。私たちはあの家の子よ。そうでしょ?」
「あざみちゃん……うん、ありがとう」
微笑む日菜子に、私は手を差し出した。
日菜子は手を取り、立ち上がる。
私たちは手をつないだまま、家に帰るために歩き出した。
明日からハライノギ本年が始まる。
七日七晩かけて絞り出した「罪」を、悪喰の蛇神に捧げる儀式。
時代錯誤のたいくつな行事。
信仰心のない私たちはただ、自分と自分の大事なもののためにそれに臨むだけ。