ハライメ〜悪喰の大蛇〜
本年のハライメをする、と日菜子が自分の口から加代に教えた時、その後に続けられた言葉を、私は思い出す。
『あのね、私のお母さんも、17年前に本年のハライメをやったんだって』
『私ね、思ったんだ。お母さんは、どんな気持ちで本年のハライメをしたんだろうって。
もしかして、これで自分のことをみんなに認めてもらえるかもしれないって、思ったんじゃないかって。
でも、結局いまだに悪いように言われちゃってるみたいだけど……』
日菜子の言葉に、私も、たぶん加代も、胸を突かれた。
日菜子の母親は、私の父の腹違いの妹にあたる。
私たちを育てた祖母の娘ではなくて、祖父と愛人の女性との間にできた娘で、10歳くらいの頃に矢鳥家に引き取られてきたらしい。
彼女は10代で父親のわからない子を身ごもって、その子―――日菜子を産んですぐに亡くなってしまった。
もともと彼女を「めかけの子」とさげすんでいた一部の人々が、「めかけの子の娘」である日菜子に対しても悪意のトゲを隠さずに接してくるのを、
ずっと一緒だった私たちは幼いころから何度も目にしてきた。
『私はね、別にこの儀式をやったって、意地悪な人たちが優しくなるなんて思ってないよ。
だけど、自分で自分のことを認められる気がするの。
本年のハライメをやったんだぞって自分に誇れたら……私も、矢鳥家の一員なんだって、やっと胸を張って思える気がする』