野獣は甘噛みで跡を残す
Ⅱ………不本意×New World
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

 二人掛けのダイニングテーブルを挟んだ向かい側に向かって頭を下げる。

 トイレまで運んでもらったあげくずっと背中を擦ってもらい、二日酔いによく効くドリンクまで飲ませてもらって、顔を直視できない。

 下げすぎた頭をテーブルにぶつけ「痛っ」顔を上げた。

「服まで洗濯してもらって………本当、すみません」

 いつもとは違う少し甘い柔軟剤の匂いがする長袖のくすみピンクのブラウスと黒のパンツ。

 何でも酔っ払った私は白石君に絡み、白石君を掴んで離さなかったらしく、不本意にも私の面倒を見ることになった彼は、タクシーの中で気分を悪くした私を不本意にも自分のマンションに連れて来ることになったらしい。

 そのとき服を汚してしまい、自分で脱いでしまったところ見るに耐えなかった白石君が何とかティーシャツだけは着させてくれたらしく…………

「もういいわよ。でもこれからは調子に乗って飲まないことね。これが他の男だったらアンタ、確実に襲われてたわよ」

「はい………」

「だけど今日が土曜でよかったわね。そんなんじゃろくに仕事もできなかったでしょ」

「え、仕事って。私、仕事の話もした?」 

「病院で管理栄養士してる。調理師のおばさん達が言うことを聞いてくれない。私のことを舐めてる」

「………」

「って、タクシーの中で何度も言ってた」

「…………」

 聞けば聞くほど失態しかない。

 高校を卒業して十年。

 よりによってあの白石君に介抱され、裸まで見られ、愚痴を溢すなんて。

 みっともない所を見られてしまった。

「ごめんなさい……本当」

 口を開けばもうその言葉以外出てこない。

 がくっと項垂れるしかできない私の旋毛には、そのたび「もういいって言ってるでしょ」そう繰り返される。
  
  
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