桜咲いて

それはもう、見事な迄に晴れの日だった。きっぱりとした青空。時折見える白い雲が、その青を強調しているかのようにも思えた。
桜も未だに完全には散りきってはいないというのに、随分と日差しはきつく、夏が間違って来てしまったか?と、おかしな心配すらする程であった。
僕は、桜の花びらを掴もうと手を伸ばす。しかし花びらは手をするりと避け、何語も無かったかのように、ひらりひらりと落ちていった。

『【僕】!こんなところに居たのかよ!早く行こうぜ!』

『図書委員会のポスターなんだけど、【僕】くん、何かいい案無いかな?』

『【僕】。そこは、その公式じゃなくてこっち。ややこしい時は意味を考え見るといいよ。』 ..........................

そんな級友の声が聞こえた気がして、振り向く。だが、いるはずも無い。ここは、長期入院患者用の病棟で、学校ではないのだから。
しかし、そうだと分かっていても寂しいものはやはり寂しく。
ただ、暗いやつ、と思われがちな僕の、控えめに呟いたつもりの言葉を零さずに、面白い子と評価するようなちょっと変わってて優しい級友。学校の制度で、原則クラス替えがないものだから、いつ戻ってもいいんだ、と言う嬉しさに小さく笑みを浮かべる。どうせ、戻れやしないのだけど、なんていう自嘲を交えながら。
やっぱりちょっと日差しがきついな。額に手を当て、影を作ってみると、誰にいうでもなく呟き、動き出しにぎぃっと音を出す車椅子のタイヤを回した。
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海には、金色の光を放つ満月の月明かりのみが差していた。細かで真っ白な、誰もいない砂浜に一歩踏み出せば、ぼふっとなんとも気の抜けた音を出す。それがなんだかおかしく、男は微笑みを浮かべ、片手で少し砂を掬う。さらさらと手から零れ落ちてゆく砂は、昼間の太陽の熱がまだ覚めておらず、心地の良い温もりを孕んでいた。 ざざあん....ざ、 ざざあん.... 波の音は、途絶えること無くなり続ける。 男は、海にはそれ以上近づこうともせず、真っ白い砂浜に座り込むと、とても穏やかな笑顔を浮かべ、そこには誰もいないと言うのに、まるで誰かに語りかけるように口を開いた。 『こんばんは、聞こえるかい?人魚さん。』 誰もいない砂浜。当然返事があるはずもなく、シンとした静かな時が流れる。しばし波の音を聞いていた男は、何を思ったのか満足そうに頷く。 『今日は、そんなに長くはいられないんだけど、ほら、折角綺麗な満月だから。人魚さんと一緒にみたくてさあ。』 やはり、返事はない。男の目線はすっと上がり大きな満月を向く。そこに【人魚さん】の姿は見受けられないが、それでも男に言わせれば【人魚さん】は確かにそこに存在した。 男が言うに、【人魚さん】には足がない。【人魚さん】には声がない。【人魚さん】には姿がない。だか、それでも存在した。いいや、存在している。 さあ、今語ろう。この男と【人魚さん】のお話。海へ溶け、語られなかった物語を。

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