君を愛していいのは俺だけ

「……いきなり呼ぶなよ」

 伏し目がちにしていた視線を彼に合わせると、私から目を逸らして街並みを眺めている横顔があった。
 だけど、その表情はどこか照れているようにも見える。

 彼の頬がほんのり赤く見えるのは、お酒のせいかな? それとも寒いから?
 付き合っていた頃の思い出にはない、初めて見る彼の表情に胸の奥がきゅんと鳴る。


「まだ仁香と話したいんだけど……帰る?」

 すかさずかぶりを振って、彼の誘いに乗った。
 こんなチャンスは二度とないかもしれない。彼から誘ってくれた夜がまだ続くなら、終わりまで一緒にいたくなる。

 もう少しだけでも彼と話したら、今の彼をもっと知れるかな。
 七年前とは違う私たちの距離がどれくらいあるのか、計れたらいいのに。


< 172 / 431 >

この作品をシェア

pagetop