君を愛していいのは俺だけ

「じゃあ……名前のこと、知りたい」
「あぁ、周防のことか」
「聞かれたくないことだったら、言わなくていいです」
「大丈夫だよ。仁香と別れた後、少ししてから両親が離婚したんだ。今の父親の名字が周防だから、必然的に俺も変わったってだけで」

 陽太くんも色々あったんだなぁ。
 ご両親の離婚があったから引越しもしたんだろう。
 そんな時に、私はいなくなった彼を責めたくなったこともあったし、行き場を失った恋に苦しんだり、受験もあって……。
 だけど、どんなに時が経っても、彼への想いは色褪せなくて。


「仁香が暗い顔してどうするんだよ。もう何年も経つし、長々引きずることでもなかったから大丈夫だよ。俺も成人してたし」
「引越したのは、そのせい?」
「うん」

 気になっていたことを知れただけでも、また少し彼に近づけたようで嬉しいな。
 会社では見せない、彼のリラックスした微笑みは、あの頃と変わらぬ優しさだ。


< 185 / 431 >

この作品をシェア

pagetop