君を愛していいのは俺だけ

 夕方になり、恋人や家族がいる社員はいそいそと退社していく。

 滝澤さんはまだ仕事が残っていたようだけど、迎えに来た桃子ちゃんが彼の隣の席に座って、「終わるのを待ってるから、頑張って」と言っていた。なんとも微笑ましい同期二人の雰囲気に、私まで癒されるようだった。


「じゃあ、また月曜に」
「仁香ちゃん、本当に来ないの?」
「うん、ごめんね。ふたりで仲よくして」

 元木さんも家庭の都合で参加できず、結果的に桃子ちゃんと滝澤さんがデートをするような流れになってしまったけど、これはこれでいいだろう。
 佐久間さんが送ってくれた案内を再確認して、開始時刻に間に合うようにフロアを出た。

 パウダールームで身なりを整える。
 どこに向かえばいいのか分からないままだけど、実は陽太くんと話すチャンスだと思い、誰にも聞かずにいた。


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