君を愛していいのは俺だけ
佐久間さんからの案内で場所が割愛されていたのは、念のためだと聞かされた。
参加メンバーを信じていないわけではないけれど、一応個人情報ではあるから伏せたらしい。
数日前に、彼に連れられてきたマンションの前で、改めて建物を見上げる。
「仁香、行くよ」
「はい」
三歩先にいた彼が立ち止まり、ほんの少し躊躇している私を呼んだ。
この前はふたりきりで食事をして、彼の部屋に行くかどうかも自分で決めたのだから、今日よりもハードルが高かったはず。
だけど、今日は今日でドキドキする。ふたりきりじゃないと分かっているのに、マンションに入ったら一層緊張してきた。
鼓動をなんとか鎮めようとしつつ、相変わらず豪勢なロビーでコンシェルジュカウンターに立ち寄る彼の後ろで背を見つめる。