君を愛していいのは俺だけ
「俺が仁香を呼んだんだよ。使える理由はなんでも使って、仁香と過ごす時間がほしいから」
彼は、やわやわと私の髪を撫で、ふたりで到着したエレベーターに乗り込んだ。
「どうして仁香が先に来てるのか聞かれたら、ちょっと早く着いただけだって言っておいてね」
「もちろんです」
日頃、最も近くで働いている社長室のメンバーにも、抜かりなく私たちの過去は隠し通すのだろう。
それが当たり前のことだって理解はしていても、なんだか切なくなる。
今日までの彼の言動に、いちいち期待してしまうようになったせいだ。
「また暗い顔をしてる。彼らに言う必要がないって意味だからね? 秘密にしておきたいんだよ、俺たちのことは」
「うん、わかってます」
陽太くんは、どういうつもりで秘密にしたいんだろう。
過去にあった関係なら、誰にも言わないのに……。今の私たちに、他の特別な関係はないはずなのにな。