君を愛していいのは俺だけ
いよいよバレンタイン当日を迎え、イベントに合わせた企画やデザインが効果を発揮しているのか、今月で二番目に売り上げがいい。
私はというと、MDと社長室を行き来するようになり、双方の業務を同時進行することが増えてきた。
入社して一年にも満たないけれど、日々頑張ってきた内容や抱えている案件を同僚に引継いだり、次年度の始まりから少しでも早く社長室の業務に慣れるための下準備に追われている。
社長室の奥にあるガラス張りの執務室には、陽太くんがいる。
だけど、すりガラスになった目隠しのせいで、彼が座ってしまうと足元しか見えない。それでも、近くにいられて幸せな気分だ。
社長室勤務になる私が所属するのは、新規事業計画グループ。フリーアドレス制の社長室内で、私はできるだけ執務室が見える席を選ぶようにしている。
「佐久間、ちょっといい?」
突然、執務室のドアを開けて、彼が佐久間さんを呼んだ。
一瞬でもいいから目が合えばいいなと思ったのに、彼は私を一瞥することなく佐久間さんと執務室に戻ってしまった。