君を愛していいのは俺だけ

 だけど、仕事となると人が変わったように凛々しくなる彼に、私はもれなく見惚れてしまう。
 声を荒らげるタイプではないから、いつでも社長室は穏やかだけど、佐久間さんは彼の難題に日々苦戦していると知った。


「秋吉さん、MDの資料持ってたよね?」
「どの件ですか?」

 佐久間さんに呼ばれて、彼の隣に立つ。
 中腰でパソコンの画面を覗くと、私にはとても作れそうにないデータ作成画面があった。


「ここのグラフに入れる数字が見当たらなくてさ。全社共有フォルダに入ってたっけ?」
「MDフォルダです。権限がないと入れないので、お送りしますね」
「助かるよ、ありがとう」

 私でも役に立つことがあるだけで嬉しい。
 残り一カ月、MDと社長室の行き来をする時間は、だんだん割合が変わってきた。


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