君を愛していいのは俺だけ

「どこに行ってたんですか?」
「ちょっと他の部署に」

 十分とかからず戻る予定だったけど、周防社長と話すのはなんだか心地良くて、あっという間に三十分が経っていた。
 滝澤さんには詳しく話せるはずもなく、ごまかすしかなくて。


「そういえば、知ってます? 桃子ちゃん、社長のこと本気っぽいって」
「初耳です」
「ランチの時、男心について話を膨らませてたでしょ?」
「それは聞いてましたけど……」

 桃子ちゃんが滝澤さんに、恋愛観の質問をしていたのは、もちろん聞いていた。


「社長に片想いしてるから、っていう説があるみたいですよ、悩んでる理由」
「誰から聞いたんですか?」
「元木さん」
「へぇー、そうなんですね……」

 動揺を隠しながら、パソコンに視点を合わせたまま会話をする。
 仕切りのないオープンなデスクでは、少しでも俯いていないと動揺に気づかれそうだ。


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