君を愛していいのは俺だけ

 ――「じゃあ、頼んだよ」と、誰かが言った。
 続いて、お疲れ様ですと何人もの声がして、私はがっしりとした腕に押され、足を前に進める。


「秋吉さん、家の住所言って」
「千駄ヶ谷の駅の近くです……」

 私の家は、ワンルームで家賃が八万五千円で……。広くはないけど、立地が出勤に便利だったから、前職の時に選んだ賃貸マンションで……。


 ぐるぐると回る頭の中で呟いていると、頼りがいのある肩に寄りかかることを許され、そのまま目を閉じた。



「秋吉さん、降りて」
「はい……」

 力の入らない身体でなんとか踏ん張り、アスファルトにヒールで立った。


「あれ? 滝澤さん」
「あれ、じゃないよ。飲みすぎだから。家どこ?」
「この先を真っ直ぐ五分くらい歩いたところです……すみません」

 酔いが回ってふらつく私を、滝澤さんが支えてくれている。

 ――周防社長じゃなかったんだ。


 滝澤さんに迷惑をかけておいて、こんなことを思うなんて失礼だとは思うけれど、それが本心だった。


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