君を愛していいのは俺だけ

 帰りのバスは、佐久間さんと墨田さんが乗車前から話し込んでいたせいで、私と社長が隣り合ってしまった。

 ちらりと横目で彼の様子を見ると、窓の外に視線を投げている横顔があった。
 せっかくの機会だから、なにか話したいと思っても、後ろの席では墨田さんたちが話していて、気が引ける。
 ちょっとでも社長と接したら、また噂の種になりそうで……。


「初めてだって言ってたな、長崎」
「っ、はい」

 不意に彼が口を開いたから、驚いた。


「俺はこれで三度目。福岡は何度も行ったことがあるけど」
「他の県には行ってないんですか?」
「ひと通り行ったよ。佐賀にも三回行ったし、大分は温泉旅行をした。宮崎と熊本、鹿児島は二回ずつ」
「フットワーク軽いですね」
「そうか?」

 話してくれるのは嬉しいけど、目を合わせてくれないのが少し寂しい。


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