君を愛していいのは俺だけ

 目の前に社長が座って、視線の置き場に悩む。
 佐久間さんばかり見ていても不自然だし、隣に座った墨田さんと話を弾ませるわけにはいかないし……。

 先に届いた生ビールで乾杯をすると、彼も佐久間さんも美味しそうに喉を上下させた。
 仕事の後で、しかも出張となるとお酒の美味しさも格別なのは分かるけれど、彼の首筋が目に入ってドキドキしてしまい、私ももうひと口ビールを飲んだ。


「今日はあまり飲みすぎないでね」
「はい。気を付けます」

 飲みはじめたばかりなのに、墨田さんに言われてジョッキを持つ手が止まった。


「まぁ、そう言わずに。歓迎会で酔ったからって悪く言わなくたっていいと思うよ」
「でも……」
「別に誰も迷惑かけてないんだし、墨田さんだって自分が逆の立場だったら困るでしょう」

 社長がそう言うと、墨田さんが黙り込んだ。
 私を助けてくれたのは嬉しいけど、逆効果かもしれないとそわそわする。


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