イジワル騎士団長の傲慢な求愛
巨体の一撃は、力が強く大振りな分、予備動作も大きかった。
それは拙い剣技の証拠でもあり、フランドル領内で騎士団長を務めていた経験を持つルーファスにとって、つけ入るには十分すぎる隙だった。
巨体が剣を振りかぶっている間に、ルーファスは即座に反撃へ転ずる。剣の腹で男の手の甲を強く打ちつけると、男は剣を取り落し、ぐっと呻いた。
すかさず刃を首の下に押し当てて、壁際まで追い詰める。
男の首に、ツーっと一筋の血が滴たり落ちた。
首の皮一枚を割いて、ルーファスは男へ警告する。

「殺されたくなければ、去れ。そして主人に伝えろ。これ以上彼女に手を出せば、次は迷わず殺す」

男はルーファスの威圧感に気圧されて、ひぃ、と巨体に似合わない情けない声を上げた。

圧倒的な実力差を見せつけられ、男はそのまま、部屋から飛び出し逃げていった。
ルーファスは、そのうしろ姿を見送った後。

「セシル!」

床にぐったりと横たわるセシルのもとに膝をつき、その弱った体をゆっくりと抱き起こした。口に結ばれた布を解く。
見れば服が乱れているだけではない。頬がわずかに赤く腫れていて、首には絞められたばかりの真っ紅な痣。
青白い表情で呻くセシルに、ルーファスの胸には堪えきれない怒りと不安が込み上げてくる。

「大丈夫か!? おい、返事をしろ!」

鬼気迫るルーファスの声に、酸欠でぼんやりとしていたセシルの視界が次第にはっきりしてくる。

「セシル! 頼む!! 無事だと言ってくれ!」

掠れた慟哭が静まり返った部屋に大きく響いて、セシルはゆっくりと意識を取り戻した。
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