イジワル騎士団長の傲慢な求愛
心も体も満身創痍のセシルだったが、目の前にいる彼を見てホッと落ち着きを取り戻した。

仮面をしているけれど、今度こそ間違えない、彼こそルーファスだ。
艶やかで男らしい低い声。体を支える、力強い腕。
ずっと探していた彼が、今ここにいる。

「……ルーファス」

セシルが微笑むと、ルーファスは瞳を揺らめかせたあと瞼をぎゅっと固く瞑り、セシルの体を抱き寄せた。

「――セシル……!!」

力いっぱい抱きしめられて、息苦しさに呼吸が止まる。
けれど、その苦しみさえ心地よいと、セシルは幸せな気分に満たされた。
彼の肩に顔を埋めながら、その温もりに心ゆくまで溺れる。

男に襲われ、殺されかけたという恐怖も新しいが、こうして再びルーファスの腕の中にいられる喜びがすべてに勝り、セシルの瞳からは涙があふれてくる。

「……助けに来てくれたのね」

「当たり前だ」

ルーファスは自らの仮面を脱ぎ捨て、セシルにそっと頬を寄せる。
つい先程まで味わっていた寿命が縮むような切迫感を安堵のため息とともに押し流して、優しくこめかみに口づけた。

「……遅くなって悪かった。怖い思いをしただろう」

「ううん、もう大丈夫」

「目に涙を溜めてなに言ってる。お前はそうやっていつも強がってばかりで……」

それがルーファスにとっては、いじらしく愛苦しいのだと、セシル自身は気づいていない。
余計に苛めてしまいたくなるし、大丈夫だと抱きしめてやりたくもなる――頼って貰えないことが男にとってなによりも耐え難い仕打ちだということを、セシルはまったくわかっておらず、ルーファスは悔しい気持ちになる。
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