イジワル騎士団長の傲慢な求愛
額を優しくコツンとぶつけて、ルーファスは甘く叱る。

「俺の前にいるときくらい、ちゃんと泣け」

「……怖いから泣いているんじゃないの」

ゆっくりと首を振るセシルに、ルーファスは眉をひそめる。

「……今、ルーファスに会えたことが、嬉しくて」

あの舞踏会の晩、出会ったのはルーファスだったのか、ルシウスだったのか、セシルにはもうよくわからない。

けれど、今愛おしいと感じているのは、間違いなく――
つうっと瞳から涙がこぼれ落ち、こめかみを伝い流れていった。

「……馬鹿なやつだ」

濡れた軌跡を拭いながら、ルーファスは口もとを綻ばせる。

「お前が攫われたと聞いて、俺がどんな気持ちになったか……」

「心配してくれたの……?」

「心配? そんな稚拙な言葉で俺の心中を片付けようとするな」

ルーファスは言葉にこそしなかったが、揺れる深蒼の瞳がなによりも確かに物語っていた。

――愛おしい。
彼女を失うかと思ったとき、胸が張り裂けそうだった。
例えすべてを捨てることになっても彼女を助けたかった――

セシルは、ルーファスの表情の中に、あの晩、恋をした青年の面影を見つけてたまらない気持ちになった。
しかし、声にして確かめるのはよしておこう。この気持ちは、セシルだけの秘密でいい。
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