イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「……姉さん?」

「ごめんなさい、気にしないで」

回れ右をして部屋に帰ろうとするセシルだったけれど。
廊下の奥からノックの音が響いてきて、ふたりは振り返った。

見れば、ルーファスの部屋の扉をノックする女性秘書官の姿。
夜着――とまではいかないが、日中の堅苦しい制服ではなく、プライベートといった出で立ちをしている。
扉が開き、女性は部屋の中へと吸い込まれていく。
やがて扉はなにごともなかったかのように固く閉じられた。

「……もう、政務は終わったと……」

思わずぼそりと呟いたセシルだったが、その言葉にルシウスの表情が険しくなったのを見て、失言だったと気づいた。

「……ごめんなさい。なんでもないわ」

「姉さん、待って!」

逃げるように身を翻したセシルの肩を、ルシウスが掴む。

「俺が聞いてきます。だから姉さんは部屋で待っていて」

セシルの不安を見透かすように、厳しい顔つきで念を押すルシウス。

「もしなにか変な噂を耳にしたのでしたら、そんなもの信じることありませんから」

逆に、そんな噂が出回っていたことを証明する形になってしまい、セシルの不安感は増大する。
ルシウスは安心させようと微笑んでくれたけれど、その笑みはどこか嘘っぽく、作り物だとわかってしまった。
< 138 / 146 >

この作品をシェア

pagetop