イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「ううん……いいの」

ルシウスの手を解きながら、セシルは力なく首を振る。

「……私がここにいたことは、見なかったことにして。お願い」

「姉さん……」

「おやすみなさい」

セシルは早足にその場を立ち去り、自室へと駆けこんだ。
ベッドに突っ伏して、頭から毛布をかぶる。

もう十日もこの部屋を訪れていないのは、仕事が忙しかったからではない。
関係を拒んだセシルに飽き飽きしてしまったのか、あるいは――

(あの女性と、一緒に……)

胸が押しつぶされるように痛む。
愛してもらえていたのではなかったのか。所詮、ルーファスの中でこの結婚は政治的なものだったのか。自分は、伯爵家の令嬢として都合がいいからもらわれてきただけなのか。

本当にルーファスが愛しているのは、あの女性なのだろうか。

この先築いていくはずだった幸せな家庭が真っ黒に塗りつぶされていく。
あの日、初めての夜に拒まなければ、こんなことにはならなかったのだろうと、後悔が押し寄せてきて――

(どうか、もう一度、私のことを愛してください……)

涙混じりの懇願は、セシルの心の中だけに響いて、一番伝えたい人の耳に届くことはなかった。
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