イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「……ルシウスに聞いた。不安にさせたなら謝る。しばらくここに来なかったのは、お前に嫌気が差したわけでも、他の女のところに行っていたわけでもない」

ドクン、と鼓動が大きく鳴って、潤んだ漆黒の瞳が惑う。

「じゃあ、なに?」

続きを急かすセシルの声は鼻にかかっていて綺麗とは言い難く、みっともなかった。伯爵夫人にあるまじき醜態。
けれどルーファスはそっと体を離し、泣き腫らしたセシルの顔を覗き込みながら、観念したように答えた。

「……子どもみたいな理由だ。お前に拒まれたのが悔しかった。それから、傍にいても触れさせてもらえないのが歯がゆかった」

いつも強く気高いルーファスの弱気な声を、セシルは初めて耳にした。
こんな顔にさせてしまった自分は、妻失格だ。胸が締めつけられるように苦しい。

「……拒んだのは、けっしてあなたが嫌だとか、そういう理由じゃなくて――」

「わかってる。慣れていないお前に強要した俺も悪かった」

「悪くなんか……だって当たり前のことだもの、夫婦なんだから」

この十日間、セシルを苦しめ続けてきた罪悪感。
あのとき、臆病にならなければよかった。素直にルーファスの愛情を受け止めていれば。
その葛藤を感じ取ったルーファスの表情は、ほんの少しだけ緩やかになった。

「ああ。夫婦だから、くだらない強がりなんかするべきじゃなかった。素直に愛していると言うべきだった」

穏やかな瞳の蒼に、セシルの不安感が消え失せていく。今、彼が自分の中のすべてであることを思い知らされる。

愛していると言えなかったのは、セシルも同罪だ。
信じて体を預けられなかったことも罪深い。
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