イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「あれはおそらくヴァイール伯の手の者でしょう。男が倒れた際に見えた短剣に、紋章が入っておりました」
隣の領地を統べるヴァイール伯爵とは、険悪とまではいかないものの、一歩間違えれば紛争を起こしかねない際どい関係を保っている。
両領地を跨るエルギーニュ山脈は、鉄鉱石や宝石が豊富に眠っている。採掘範囲を巡って、諍いが怒ることもしばしば。
その上、鉱物の加工産業ではライバル関係にあり、市場でも争いが頻発している。
「ローズベリー家が消滅すれば、彼らは採掘場と市場を独占することができる。あなたの不正を告発して弱らせた隙に利益を享受しようと考えているのかもしれません」
セシルは唇を噛みしめた。窓の外、ゆっくりと移り変わる景色を眺めながら、目を細める。
そこまでひっ迫した事態だというのに、足手まといにしかならない弱い自分。
まるで不甲斐なさを指摘されているみたいだ。フェリクスの真っ直ぐな眼差しに、セシルは答えられない。
「……セシル様はもう充分な大人の女性になられた。男装などでは隠し通せません。私から伯爵に進言いたしましょう」
セシルはギョッとする。まさか家臣の身でありながらセドリック伯爵に意見する気だろうか。
「駄目! お父様の怒りを買うだけよ!」
「いずれにせよ、今日のことは伯爵に報告せねばなりません。現状をお伝えすることが私の義務です」
固い決意を噛みしめるように、フェリクスは瞳を閉じる。
ここ数年、父がその頭脳と手腕に絶大な信頼を寄せている優秀な政務官が導き出した最良の答えがそれなのか。
しかし、政務官といえど、伯爵に刃向かい機嫌を損ねようものならただでは済まない。
長い間領地の長として君臨する父・セドリックは頑固で、人の話を聞き入れないところがある。
隣の領地を統べるヴァイール伯爵とは、険悪とまではいかないものの、一歩間違えれば紛争を起こしかねない際どい関係を保っている。
両領地を跨るエルギーニュ山脈は、鉄鉱石や宝石が豊富に眠っている。採掘範囲を巡って、諍いが怒ることもしばしば。
その上、鉱物の加工産業ではライバル関係にあり、市場でも争いが頻発している。
「ローズベリー家が消滅すれば、彼らは採掘場と市場を独占することができる。あなたの不正を告発して弱らせた隙に利益を享受しようと考えているのかもしれません」
セシルは唇を噛みしめた。窓の外、ゆっくりと移り変わる景色を眺めながら、目を細める。
そこまでひっ迫した事態だというのに、足手まといにしかならない弱い自分。
まるで不甲斐なさを指摘されているみたいだ。フェリクスの真っ直ぐな眼差しに、セシルは答えられない。
「……セシル様はもう充分な大人の女性になられた。男装などでは隠し通せません。私から伯爵に進言いたしましょう」
セシルはギョッとする。まさか家臣の身でありながらセドリック伯爵に意見する気だろうか。
「駄目! お父様の怒りを買うだけよ!」
「いずれにせよ、今日のことは伯爵に報告せねばなりません。現状をお伝えすることが私の義務です」
固い決意を噛みしめるように、フェリクスは瞳を閉じる。
ここ数年、父がその頭脳と手腕に絶大な信頼を寄せている優秀な政務官が導き出した最良の答えがそれなのか。
しかし、政務官といえど、伯爵に刃向かい機嫌を損ねようものならただでは済まない。
長い間領地の長として君臨する父・セドリックは頑固で、人の話を聞き入れないところがある。