イジワル騎士団長の傲慢な求愛
翌朝、事態は思わぬ方向へ動いた。

「セシル!」

朝の支度を済ませ自室を出ようとしていた矢先、姉のシャンテルが乱暴に扉を開け放ち部屋へ飛び込んできた。

「大変よ、セシル! ああ、こんなことってあるのかしら……信じられない……」

セシルの両腕を掴みながら、シャンテルは天を仰いだり、うつむいて考え込んだり、表情をくるくると変化させている。

「落ち着いて。どうしたっていうの?」

「手紙が届いたのよ! でも突然どうしてこんなことに……?」

手紙? いったいなんのことだろう。セシルは眉をひそめるが、シャンテルはまだ冷静に話せそうもない。
困惑していると、開け放ったままの扉が形式的にノックされて、見ればフェリクスが佇んでいた。

「中に入っても?」

「ええ。これはなんの騒ぎ?」

ひとつ咳払いをしたフェリクスの手には、開封済みの封筒が握られていて、無言でそれを差し出してきた。

「なんなのこれは?」

「貴方様への縁談の申し込みです」

「……は?」

予想だにしなかった返答に、セシルはぽかんと間抜けに口を開けてフェリクスを見返した。
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