イジワル騎士団長の傲慢な求愛
その日の夜。
セシルが重い足取りで向かったのは、二階の奥にある来客用の一室。ルーファスが使っている部屋だ。

姉の助言に従い――従わなければ怖いことをセシルは重々承知だったため――ルーファスにお礼を伝えに来たのだ。

勇気を出して扉を叩くも、しばらくなんの返事も返ってこなかった。
そこまで遅い時間でもないが、長旅で疲れているのだろう、寝てしまったのかもしれない。
どこかホッとして回れ右をした、そのとき。

ギィッと扉を軋ませて、中から姿を現したのは、夜着に着替えたルーファス。

普段の首まできつく締められた外套や、ベスト姿とは違い、胸が大きく開いた柔らかな絹衣を羽織っている。
襟もとから筋肉質な肌が見えて、目のやり場に困ってしまった。
来るタイミングを間違えた。明日の日中にでも時間を取って貰うべきだった。

「どうした」

訝し気な目をするルーファス。思わずセシルはしどろもどろになった。

「……あ、あの、たいしたことでは」

お礼を言うだけなのにもたもたとしていたら、どんどんルーファスの眉間に皺が寄っていって、余計に焦らされてしまう。

「なんだ」

「……あ、あの!」

思い切って口にすると、思った以上に声が大きくなり、夜の廊下に響き渡った。
「静かに!」ルーファスは声をひそめて叫ぶと、セシルの口を塞いで、無理やり部屋の中へと連れ込んだ。
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