イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「……ルシウス様」

なんだか嘘みたいに、あの晩とは別人に見える。まるで魔法が解けてしまったかのようだ。

「また会えてよかった、セシル様――今は、セシルと呼ばせてください」

セシルの手を取り、会場の中央へと引き導く。

「……一曲踊りませんか?」

「でも私、ダンスが――」

「知っていますよ。苦手なんでしょう。今度は足を踏まれないように、俺がリードしますから」

ドキリとセシルの心臓が跳ね上がる。
一度目の舞踏会にあったことを、彼は覚えている。やはりルシウスが仮面の君なのだ。

艶やかなバイオリンの音色に合わせて、ルシウスの足が右へ、左へと動く。
あれだけ下手なダンスを披露してしまって、さすがのセシルも練習をした。
そのせいか、今宵はそのステップについていくことができた。

アコーディオンの情熱的な旋律がふたりの胸のうちを掻き立てる。
セシルの体を己が身に閉じ込めるように、ルシウスは強く抱き寄せる。

「……この前よりも、随分と上手になったみたいだ」

耳もとで囁かれ、セシルは困惑する。

心のどこかで、ルーファスに会えると信じていた。
だがそれは間違いで、突きつけられた真実は真逆。
仮面の君はまごうことなくルシウスだった。
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