イジワル騎士団長の傲慢な求愛
ローズベリー家を出る直前。
ルーファスはシャンテルとの距離を縮めることで、己の立場と負うべき責任を自らに知らしめようとした。

手を取り、肩を抱き、その態度は過剰だったかもしれない。セシルは表情を曇らせたけれど、嫌われるくらいでちょうどいい。

対するシャンテルは、みなの前では嬉しそうに肩を抱かれ微笑んでいたはずなのに、ふたりきりになった途端、突然冷静な顔で切り出してきた。

「ルーファス様は、妹と会ったことがありますの?」

「どうしてだ?」

「だって、セシルの目はルーファス様を追いかけているし、ルーファス様もセシルのことばかり見つめていますもの」

「……気に障ったなら――」

「かまわないわ。私はまだそこまでルーファス様を愛していないから、傷ついてもいない」

勘の鋭い女性だった。嫉妬心のかけらも見せずにサラリと言い放ったのは、女性としての矜持だろうか。

「……会ったことは、ある」

「あの書状にあった仮面舞踏会のことかしら。それくらいしか、あの子は社交場に出てませんものね」

どうやらひとりで納得したようで、シャンテルは口を閉ざす。

「……知って、どうするつもりなんだ?」

「どうもしないわ。私はローズベリー家の長女よ。あなたと結婚しろと言われればする。それはあなたも同じよね?」

強い瞳で覗き込まれて、ルーファスは無言で頷いた。自分の立場と為すべきことをよく理解している女性だと思った。

「それなら、結婚をした暁には、ちゃんと私を見てちょうだい。妻としての努めをさせて。それを約束してくれるなら、今は別の人を愛していても許してあげるわ」

毅然と言い放つ姿に、ルーファスは好感を持った。一時の感情に流されない覚悟が、彼女にはある。自分よりよっぽど大人である。

「約束する」

答えを聞くと、彼女はふっと笑った。安心したのだろうか。

「頑張って私を愛してね、未来の旦那様。私も……そうするわ」

その横顔は憂いを帯びていて、彼女の背負う影が見えた気がした。

自分を押し殺すという意味で対等なふたりが結婚という契約を結ぶのなら、まだフェアな気がした。
ならば自分も、いい加減覚悟を決めなければならない。
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