イジワル騎士団長の傲慢な求愛
フランドル家の屋敷に戻ってきたルーファスとルシウス。
数日分滞っていた政務をこなしていると、書斎にルシウスがやってきた。

「本当に、かまわないんだな?」

しつこく確認しに来るルシウスに、溜まった書類に目を通しながら、ルーファスは顔も見ずに答える。

「何度も言わせるな。かまわないと言っているだろ」

ルシウスはルーファスをまじまじと眺め本音を探ったあと、あきらめたようにひとつ息をついた。

「……初めてセシル様と出会ったのは、仮面舞踏会だと言ったか?」

「それがどうした」

「その時に出会ったのは、ルーファス、お前ではなく、俺ということにしていいか?」

なにを言い出すのかと、ルーファスは顔を上げた。
真面目な顔で腕を組むルシウスの姿がそこにはあった。政務をするときにだけ見せる、狡猾な策士としての顔だ。

「……お前のやりたいようにやれ」

「わかった。話を合わせたいから、そのときのことを詳しく教えてくれ」

ルーファスはざっとセシルとの出会いのあらましを説明した。
彼女はダンスが下手で、足を踏まれたこと。ともに会場を抜け出して庭園で花を眺めていたこと。
もちろん、口づけを交わしただなんて言わないが。

一通り話を聞き終えたルシウスが、試すように言った。

「次の舞踏会で、俺は彼女に手を出してもかまわないか?」

改めて口にされると腹が立つ。俺の知らないところで勝手にやってくれと、ルーファスは舌打ちした。
いつからこの弟は、こんなにも意地の悪い性格になったのだろう。

「好きにすればいい。いちいち俺の了解を得ようとするな」

「……なら、遠慮なく」

淡々と告げてルシウスは部屋を出て行く。

ルーファスは苛立ちに任せて書斎机に拳をダンッと叩きつけた。
積み上げていた書類がバラバラと床に散らばって、周囲はみっともなく散らかり、まるでルーファスの胸のうちを表しているようだった。
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