イジワル騎士団長の傲慢な求愛
仮面舞踏会の夜。行かないと断ったルーファスだったが、ルシウスに無理やり連れられて、再び足を運ぶことになった。

セシルにはばれないよう、会場の隅で見守っていたが、ふたりが会場を出たのを確認すると、余計なことを考えるまいと、次から次へと相手を変えてはたいして面白くもないダンスに興じた。

気が紛れるわけでもないが、なにもしていないよりはましな気がした。

「ルーファス様」

ダンスの合間を縫って背後から声をかけてきたのは、黒い巻き髪にエレガントな薄紫色のドレスを身に纏った女性。仮面をしているが、その正体はすぐにわかった。

「……シャンテル、こんなところに――」

「一曲、踊っていただけますか?」

そのうしろに、従者であるフェリクスの姿を見つける。が、当たり前だがセシルの姿はない。
条件反射のように彼女の姿を探している自分自身に苛立ちを覚えながら、ルシウスはシャンテルの手を取った。

「もちろん」

ふたりは魅惑的な宮廷楽団の音色に合わせ、その身を揺らす。

セシルとは違い、シャンテルのステップは優雅で、その容姿も相まって美しく、人目を惹きつけるものがあった。
瞳は挑発的。妹とは対極だ。まるで試されているような気分に陥る。

「こうやって、妹ともダンスを?」

「彼女はダンスが苦手なようだった」

「そうでしょうね。あの子は、女の子らしいことをなにひとつさせてもらえないまま育ったから……」

音色が一区切りついたところで、シャンテルはスカートを軽く持ち上げて会釈した。
シャンテルはルーファスの手を引くと、フェリクスのいる柱の影へと連れてきた。

フェリクスが胸に手を当てて、恭しく一礼する。
先を任せるかのように、シャンテルが一歩引いた。どうやら用があるのはこの従者のようだ。
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