【完】溺愛飛散注意報-貴方に溺れたい-
ゆっくりと呼吸するせんぱい。
悲しみと苦しさで、私の胸はひりひりと痛んだ。
そんな顔は、今まで1度だって見たことがない。
そこにいるのは…まるで雨に濡れて、行き場所を失った一匹の犬のように、震えているようだったから…。
「せんぱい…」
私は、耐えられなくなって、せんぱいの顔を覗き込む。
せんぱいは、大丈夫だと言わんばかりに少しだけ笑って見せた。
そして、また視線を前に私から離して、ぽつりぽつりと話し始める。
「どうしようもなかったんだ…それ以外、考えられなった。だから、じぃさんも嫌になったんだろうな…俺はまた家から追い出されたよ…忘れねぇ…くそ寒い冬だった。家も頼るもんも、何もかも…俺にはねぇ…そう思った時だった。親父の兄貴が見兼ねて俺に済む場所と学費の援助をしてくれたんだ」
そして、せんぱいはぎゅうっと私の手を握り締めた。
熱い熱いその手は、微かに震えていて…そんなせんぱいに向けて私は泣き出したくなり、歯を懸命に食い縛る。
せんぱいは、ずっと傷付いてきたんだ。
今、その傷を癒せるのは、もしかしたら私だけなのかもしれない。
だったら、ここで私が泣くのは筋違いだ。
だから、握られた手に私からも力を入れた。