【完】溺愛飛散注意報-貴方に溺れたい-

だんっ


次の言葉は、勢い良く入り込んできた神谷せんぱいの登場で途絶えてしまった。




「薫!」

「…おぅ…」

「わりぃ!アイツら逃がした!」

「…ま、大丈夫だろ、あんだけヤッとけば…」

「そうか?」

「未麻に手ぇ出さなくなるんなら、それでいいだろ」

「ほんと、お前、未麻一途だな…」

「煩せぇよ」



そんなやり取りに、カァっと顔が赤くなる。
本人から聞くのだって十分恥ずかしいのに、それを第三者から聞くと、更に恥ずかしくて仕方がない。

それなのに、私にはお構いなしで二人は話を進めた。




「未麻は、世界一イイ女なんだよ。俺にとっちゃな」

「あー、はいはい」

「なんだよ?なんか文句あんのか?あぁ?」

「あっりませーん。つか、透んとこに円香っち行ってたけど、お前、もしかして行かせた?」

「…え、…あ」


突然話を振られて、一瞬何の事か分からなかったのだけれど、すぐに自分が円香を由井せんぱいのいる場所に行かせた事を思い出した。


「い、行かせました…駄目でしたか?」

「あー?いんや?なんか透、機嫌良かったぜ?」

「……そ、そうなんですか?」

「こんなんで、ウソつかねぇよ。あいつ、満更でもないんでねーの?円香っちのこと」


由井せんぱいの機嫌が良い所は想像が付かなかったけれども、円香の事が迷惑じゃないんだったらいいなと思った。
神谷せんぱいは、それだけ言うと、さも楽しげに鼻歌を歌いながら「じゃーなー」と教室から出て行ってしまう。
残された私は、なんとなく居心地が悪くて、もじもじしてしまってた。
それを知ってか知らずか、薫せんぱいは何時もと同じ様に、真っ直ぐ私を見ながらこう囁いてくる。



「未麻、俺から離れんなよ?」

「…っ」

「ま、離れたいって言っても、今更離さねぇけどな」

「…ばか」

「あー?そういう奴は…お仕置きだな」


にやり、笑われて、私が何かを言う前に。
薫せんぱいにぐいっと引き寄せられる。


「…マジで離れんなよ」

「…せ、せんぱ…」

「離れんな」


ぎゅうっと抱き締めれて、薫せんぱいの声が耳元にダイレクトに響いた。


「約束しろよ…離れないって」

「……はい」

「良い子だ」



私の返事に満足したのか、薫せんぱいは私の背中を何度も撫でて行く。



こんなに、愛しくて仕方がなくなった存在から与えられる熱に。
私は何処までも癒されて、足元からぐずぐずに蕩かされていく。


ねぇ?
私は、貴方の腕の中で、このまま甘えてしまってもいいのでしょうか?


傷付けるのも、傷付けられるのも、苦しい。
それが、たとえ…貴方が望んだ事であったとしても。

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