【完】溺愛飛散注意報-貴方に溺れたい-
そんな私に向けて薫せんぱいは声を掛けてくる。



「…未麻…」

「……」

「…怒ってんのか?」

「………」

「未麻」


何処となく縋るように名前を囁かれて、私は漸く口を開いた。
纏まらない気持ちを押し出すようにして。



「違います…私…苦しくて…」

「…大丈夫だ。こんな傷、大した事ねぇよ」

「そう、じゃなくて…」

「んな、泣きそうな顔すんな…どうしていいか分かんなくなる」

「だって…だって、せんぱい…口唇の他にも絶対に怪我してるのに…」



ぎゅうっと自分の制服の胸の辺りを握り締めて、そう呟くと薫せんぱいは今度こそ心底驚いたような顔をした。



「っ!なんで、分かった…あ…」

「やっぱり…」


その言葉尻に、失敗した、と後悔の色が含まれた事に、私はとても腹が立って…恨めしそうに薫せんぱいを睨んだ。
そんな私に、薫せんぱいは頭をガシガシっと掻いて、罰が悪そうに言い訳をしてくる。



「わりぃ。約束破った事は、謝る…けど、俺は…お前を傷付ける奴は一人だって許せねぇんだよ……」

「でも…」

「お前の事は誰にも渡せねぇ…それくらい、大事なんだよ…」

「…なん、で…?」

「……それは…」



< 79 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop