過保護なドクターととろ甘同居
横に並んで歩く先生を見上げると、その視線に気付いたのか、先生はチラリと私を見下ろす。
そしてまた進行方向へと顔を戻すと、どういうわけかフッと笑みをこぼした。
「いや、あの時、火に油を注いでしまったかな、と」
「あっ、い、いえ! そんなことは!」
「そう。じゃあ、仲直りした?」
サラリと出てきた先生の言葉に、内心ゔっと返答に困る。
でも、無言になるのは空気が悪くなりそうで、前を向いたままへらっと笑ってみせた。
「別れることにしたんです、あの後。あ、先生に言われたことがきっかけとかではなく、私たち、元々もうダメなところまでいってて。なので、お互い納得した上で」
「……そうだったんだ」
「良かったんです、これで」
自分に言い聞かせるように呟くと、何故だかじわりと涙が込み上げてくる。
こんなタイミングで泣きそうになる自分を恨みながら、首元を覆うストールに顔を埋めた。
「そんな調子じゃ、来月また遅れそうだ」
病院では、淡々と抑揚のない声で話す姿が印象的だった先生の、ちょっと柔らかい声色。
涙が滲む目で真横を見上げると、不意に背中を押される。
先生は歩道に設置されているベンチの前まで行くと、先にそこへと腰を下ろした。