浅葱色の鬼

紅音

キツネが言った

 

「この薬を飲めば、一晩だが
自分を思っている女が特別な存在になる」




土方の特別になった君菊は
土方に抱かれた


としさんの特別だったはずの私は
触れてもらえず


君菊を羨ましく思う



たった一晩でいい



私も特別な人に抱かれてみたい




まあ、感覚なんてないのだが



生きてもう一度、土方に会えただけでいい




人の世に、命など必要なくなったのだ




私は、最後の命として、生きよう










近藤が披いてくれた宴



君菊が土方を放すまいと独占している




どうか…幸せになって欲しい



原田達みたいに、子をもうけて
暖かな家族をつくって欲しい




さよなら




今度こそ、さよなら







宴の場にいる全員の記憶を消した




もうひとりと1匹


屯所で声をかける



「山崎…」


「なんや?1人で帰ったん……」



バタリと倒れた山崎のそばで
私を見上げる猫


「蒼、お別れだ
私の力を返してもらうぞ」


蒼から命の力をとり

クタリと眠る蒼を撫でた



「大切にしてもらえよ」













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