浅葱色の鬼
「初めて来たはずの場所を懐かしいと感じ
初めて会う人と昔からのような
話しやすさだったことがあるだろう
過去の記憶が重なる感覚
紅音は、人になった後のことを考えて
この場所を覚えておこうとしているんだ
そうだろう?」


「良くわかるな」


紅音が、近藤さんへ顔を向けた


「ふふっ 紅音に教えて貰ったからね」


「私は、近藤に何でも話していたのか?」


「そうだね 恋の悩みも聞いたよ」


「私が悩んでいたのか…」


チラリと俺を見た横顔が、引き攣っていた


「お前…私を悩ませたのか?」


「え…」


「そうそう!歳が君菊と浮気をしてね!」


「浮気だったのか」


「おい!おい!近藤さん辞めろって!!」


「紅音がね、歳の為に君菊とくっつけたんだ
総司と3人で、計画を練ってね
本当に、歳を大切に想って
たくさん悩んでいたよ」


くっつけられていたことを
今、知った



「ええ 本当に…土方さんの為にって…」


総司が、懐かしそうに笑った



「紅音に聞いておきたい」



近藤さんは、真っ直ぐに紅音を見た


「君の中に、もうひとり口調の違う君がいる
どちらが本当の君なんだい?」


「…………」


紅音の不安が伝わって
俺は、紅音を軽く抱きしめた


「どっちの紅音だって、紅音に変わりない
そんなこと聞いてどうするんだよ」


「総司とね 話してたんだ
どちらでも良いことだが…
人になるのなら、前もって聞いておきたい
今の口調の紅音は、俺を頼ってくれたが
もうひとりは、あまり頼ってくれなかった
対処方法を考えておきたい」


「私の記憶にある幼い頃は、口調が違う
恐らく、私は偽物なのだろう」


偽物…


「んな事言うな
どっちも本物だ」


紅音を強く抱きしめた


「……何してるんだ?痛い」



紅音には、痛みしかない

腕を緩め

紅音の頬を撫でた


「痛くしてすまない」


「それほど痛くない
土方の方が、痛そうな顔をしている」


「紅音… このまま… 命でいる事は
選択にないのか?」


「ない」


「俺は… 紅音を失うことが怖い」


「私は、生が怖い
皆と何年か過ごせたとして
歳も重ねない、歳をとった皆と共有出来ることもなくなる
そして、また ひとりになる
今、皆と同じ時を同じように生きられるなら… 私は、幸せだと思う
そう考えるようになったのは、土方の存在があったからだ」


紅音の気持ちを変えたのが、俺ならば
紅音の不安も俺が受け止め



300日を幸せいっぱいにしてやりたい










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