英雄は愛のしらべをご所望である

あまりにもウィルとシルバが平然としているものだから、動揺しすぎの自分がセシリアは恥ずかしく思えてくる。

正直なところ、セシリアは不可抗力とはいえ、シルバと手を繋いでいる姿をウィルには見られたくなかった。
ウィルはどう思ったのだろうか、という不安が沸き上がってきて、直視できないくらい怖い。

しかし、ウィルが無反応であることの方が、もっと怖かった。
関心を示さない……それはつまり、興味がないということ。好き嫌いの次元の前の段階と言っていい。


「えっと、これは……」
「そこ、座っていいのか?」
「あ、うん。すぐよける」


セシリアの座っていたシルバの向かいの席をウィルは指差した。
接客の合間の話し相手として座っていただけのセシリアが、拒否できるはずもなく、セシリアは急いで席を譲る。

言い訳をする暇も与えられなかった。
いや、言い訳なんて見苦しいことをせずに済んでよかったのかもしれない。

何故こんなことになったのかなんて、ウィルは知りたくないだろうし、興味もないだろう。

言い訳は保身のためにすぎない。
そうか、と返事がきて終わり、ただセシリアが現実にうちひしがれるだけだ。

セシリアはきゅっと唇を固く結び、頬に力を入れた。広角が僅かに上がる。
これで少しはまともな表情になれているはず。


「注文は決まってる?」


席に座ってすぐ、メニューに目を通し始めたウィルにセシリアは意識して普段通りの声をかける。
すると、ウィルはメニュー表の中から肉料理と酒を選んだ。


「じゃあ、先に飲み物を用意するね」


セシリアは言うが早いかバックヤードへと早足で向かう。
二人のように平然とした態度を見せられているかはわからないが、これ以上子供っぽいところは見せたくなかった。

そんなセシリアの後ろ姿を目で追いながら、ウィルは密かに息を吐いた。
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